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凍害

 凍害とは、コンクリート中の水分の凍結膨張によって発生するものであり、長年にわたる凍結と融解の繰り返しによってコンクリートが徐々に劣化する現象のことを言います。寒冷地のコンクリート構造物にとって、不可避の問題であると言えるでしょう。凍害を受けた構造物では、コンクリート表面が膠着力を失い破砕するスケーリング、亀甲状に発生する微細ひび割れ、及び表層下の粒子の膨張により破壊されてクレーター状のくぼみができるポップアウト、等の形で劣化が顕在化するのが一般的です。微細ひび割れ、スケーリングは、コンクリートのペースト部分が劣化するものであり、コンクリートの品質が劣る場合や、適切な空気泡が連行されていない場合に多く発生します。言い換えれば、コンクリート中の空隙内部の水分が、凍結融解を受けて生じる凍害劣化現象は、水分の凍結による体積膨張を吸収しうるだけの空隙がない場合に、その膨張圧でコンクリートにひび割れが生じたり、コンクリート構造物の表層が剥離するものです。一方、ポップアウトは骨材の品質が悪い場合に多い劣化形態です。
 
 凍害による劣化現象の主となるものは、コンクリート断面の減少であり、その程度によって鋼材腐食が発生する場合も有ります。したがって、凍害による構造物の性能低下は凍害深さによって異なり、凍害によるスケーリング等が発生するまでの潜伏期、凍害は進行するが鋼材腐食にまで至らない進展期、凍害深さが鋼材位置に達して鋼材腐食が進む加速期、凍害深さが鋼材位置より大きくなり耐荷力に影響を及ぼす劣化期に区分されます。各劣化過程は、表-1のように区分されます。
表-1 各劣化過程の定義
 水は、凍結するときに自由に膨張できる場合9%の体積膨張を生じるといわれています。セメントペースト内部では、温度低下に伴い、まず大きい空隙中の水が凍結し、次いで小さい空隙中の水が凍結します。小さい空隙中の水が凍結する過程では、大きい空隙中にできた氷晶により膨張が拘束されることになります。この膨張を緩和するだけの自由空隙が存在しない場合は、大きな静水圧が空隙の壁に作用し、これが引張強度に達したときにひび割れが生ずると考えられています。この繰返しによりコンクリート表面から徐々に劣化していくことになります。また、吸水率の大きい軟石を骨材に用いたコンクリートでは、凍結時に自身が膨張し表層付近をはじき出す、ポップアウト現象が特異的に知られています。
 
 この空隙に作用する静水圧は、最低温度、凍結速度、飽水程度、および気泡と気泡の間隔などによって異なっています。また、コンクリート中の水分は、細孔の径によって氷点が降下し、凍結の過程ではこれに過冷却現象も加わることになります。
 
 コンクリートの耐凍害性は、コンクリート中の空気量と密接に関係しています。すなわち、同一空気量の場合、気泡が小さく、いわゆる気泡間隔係数が小さいほど耐凍害性は増大する傾向に有ります。このため空気連行作用を有する表面活性剤である、AE剤を混和するコンクリートが普及する以前には、凍結融解作用はコンクリート構造物に大きな被害を及ぼす要因の一つであり、破砕厚1.5mに及ぶ例も報告されています。
 
 また、凍害による劣化の程度は、コンクリートの配合(単位セメント量、水セメント比、空気量など)、骨材の品質などのコンクリートに関する要因、部材の断面形状、鋼材量などの構造体に関する要因、および水の供給程度、日射の影響、外気温(最低温度)、凍結融解回数などの構造物が供用される環境条件に関するものなど多くの要因に影響されます。環境条件については、地域毎の平均的な環境から推定した凍害危険度の分布図から、凍害の可能性の有無をある程度評価することが可能です。凍害が発生しやすいのは、構造的に突出部で、雨水や融雪水が滑ったり流れたりする経路であり、北面よりも凍結融解の繰返しが多い南面に多く発生する傾向に有ります。また、気候条件の厳しい海岸地帯に近接したり、冬季に融雪剤を散布する地域に立地する構造物には、これに加えて塩害により、コンクリート中の細孔溶液のイオン濃度が高くなり、浸透圧によって静水圧が高くなることからスケーリング量が増加すると言われています。さらに温泉立地環境では、有害ガスの影響が予想され、これらのコンクリート劣化要因が複合的に関連して、耐久性低下の昂進を促す懸念が指摘されています。
 
 凍害によって劣化した構造物の外観変状とそれに対応する標準的な性能低下は、それぞれ表-2、3のようにまとめられます。
表-2 構造物の外観上のグレードと劣化の状態
表-3 構造物の外観上のグレードと標準的な性能低下
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