錆汁
錆汁は、コンクリート中の鋼材が腐食して茶色や褐色の腐食生成物がコンクリート表面に滲み出したものです。コンクリート中の鋼材としては、主筋、スターラップあるいはPC鋼材など部材の耐荷力に影響を及ぼす鋼材の腐食や、仮設材として用いられた鋼材(セパレータや金属製のスペーサーなど)や施工時の落し金物などが腐食の原因となっている場合が有ります。鉄筋やPC鋼材の腐食が原因となった錆汁は、これらの鋼材に沿ったひび割れを伴う場合も多く有ります。
腐食においては、概念的には鋼材表面から鉄イオン(Fe2+)がFe→Fe2++2e-の反応によって溶出し、鋼材周辺のphや酸素量の影響を受けて複雑な酸化反応が進行するため、腐食生成物の色は、表-1に示すようにさまざまな色調のものが有ります。例えば、腐食したコンクリート中の鋼材をはつり出すと、Fe3O4やその影響を受けた黒色の錆生成物が観察されます。
一方、コンクリート表面に溶出した錆汁は、多くの場合赤褐色をしており、これは空気中の酸素によって酸化が進んだオキシ水酸化鉄(α-FeOOH、γ-FeOOH、∂-FeOOHなど)によって構成されています。また、酸化物はその生成過程で当初の鋼材よりも2~4倍程度に体積が増加するため、コンクリート中で鋼材が腐食した場合には、錆汁だけでなく膨張圧によって発生したひび割れ・浮き・剥落などを伴う場合が多く有ります。
構造物に及ぼす影響
構造物の性能に及ぼす影響としては、錆汁が茶色や褐色をしていることや多くの場合ひび割れなどを伴っていることから、美観・景観に関する性能の低下が挙げられます。錆汁自体が安全性能、使用性能さらには第三者影響度に関する性能に及ぼす影響は有りませんが、錆汁が鋼材腐食の結果として発生したものであるため、鋼材腐食に起因した構造物の性能低下(耐荷力や剛性の低下剥離・剥落の危険性の増加など)が大きいことに注意しなければなりません。なお、内部鋼材の腐食が進行していても、浮きなどが生じている場合にはコンクリート表面に錆汁が見られない場合も有るので、一部にしか錆汁が無い場合でも十分な注意が必要でしょう。
補修方法
錆汁の発生した構造物の補修においては、まず原因となっている鋼材腐食の原因を確認し、部材の耐荷力に影響を及ぼす鋼材の腐食では腐食の進行を停止させる工法を適用することが基本となります。仮設鋼材の腐食では、腐食が進行すると思われる鋼材は除去しなければなりません。特に、塩害によって錆汁が確認された場合には、鋼材が腐食している部分だけでなく、有害な量の塩化物イオンが浸透している範囲のコンクリートも除去するか、電気化学的な方法によって鋼材の防食を行うことが大切です。ひび割れや浮き、あるいは剥離を伴う錆汁では、劣化したコンクリートをはつり取る場合が多いですが、母材コンクリートと同等の物性値を持つ付着性の優れた材料で断面修復を行い、補修後の機能維持や美観を回復するために、表面被覆などを行うのが一般的です。